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個人投資家の実像とニーズ、資産形成のあり方

2012年12月25日

◆個人投資家の実像

 リーマンショック後の厳しい市況環境にあって、個人投資家層が拡大しているというイメージはあまりない。確かに日銀の資金循環統計を見ても、個人(家計)の金融資産における債券保有は過去2年間減少を続けているし、投資信託も昨年の夏あたりから減少している。しかし、株式の保有を見てみると、証券保管振替機構(ほふり)の加入者口座数は10月末で1,690万口座となっており、過去2年間で22万口座2.6%と僅かながらも増加している。また、ネット証券会社や銀行などでも若年層の投資信託の積立は増えている。その個人投資家の実像はどの様な状況なのだろうか。各種個人投資家向け調査などから見直してみたい。

 まず、個人投資家の全体像を見るのに、いったい日本の個人投資家はどの位いるのかという推計から始めてみたい。確定しているのはほふりの加入者数なので、これを個人の株主数とみなした場合、「株式保有者は投資家全体の73.4%」という証券業協会の調査数値があるので、それを基に逆算すると個人投資家数は約2,300万人ということになる。この数値は、日本の総人口の約18%(20歳以上の人口の22%)に相当する。

 次に、個人投資家の実像について同じく証券業協会の調査から見ると、年齢層別では約半数が60歳以上となっており、現在の個人投資家の重心が高齢層の資産運用にあることがわかる。また、保有する有価証券の金額は300万円未満が全体の半数近くを占めるが、1,000万円以上も2割近くある。投資信託協会が一般対象に実施している調査では、個人投資家の保有する金融商品の平均金額は426.3万円となっている。

 商品別には、次のような個人の投資状況がわかる。[カッコ内は参照調査番号]
 ・ 投資信託の平均購入額は、390.2万円。[②]
 ・ 平均保有ファンド数は、1.6本[②]
 ・ネット証券会社利用者の最近の株式売買頻度は、デイトレードを行う投資家が、全体の5.3%、月に複数回以上売買を行うものは46.9%[⑤]
 ・外貨投資の内訳は、外貨預金が経験者全体の65.3%、外貨建てMMFが31.1%、外債が17.4%、FX取引が15.5%、外債ファンドが10.5%[⑥]
 ・個人投資家の通算損益に関して、300万円以上投資した個人を対象とした調査によると、平均投資額1,775万円に対して平均損失額は525万円。商品別には、株式や投信の平均損失率が約3割[⑦]

 

 

 

◆ 個人投資家のニーズ

 個人投資家を対象とした調査は、主に三つの目的があると考えられる。一つ目は、前章で示したような実態の把握、二つ目は個人投資家ニーズの把握、そして三つ目はそのニーズを政策や事業課題などで活用することだ。もちろん金融商品やサービスを提供する証券会社や金融機関にとって、個人投資家が何を求めているのかを知ることが最も重要だが、数多くある投資商品や対象の中から自ら望むものを示せる個人はそれ程多くない。そのために、定点観測のように毎月行うのが個人投資家サーベイである。
 これは野村證券やマネックス証券が行っている調査方法で、3か月先の株式市場や為替相場の騰落予想をさせて指数化したり、注目する銘柄や業種、市場に影響を与える要因、金融商品別のニーズなどについてインターネットを使って調査している。この調査方法に対する評価は、集計された数値や個人が支持する銘柄そのものが重要というより、むしろ調査項目の変化やトレンドを読むことが目的となっている。最近のサーベイ(実施時期:11月上旬)では次のような投資家ニーズが読み取れる。

・ 注目する材料として最も多いのは国際情勢だが、前月より大きく減少し、代わりに国内政治情勢や企業業績を重視する投資家が増えた。
・ 通貨に関して最も投資魅力があるのは豪ドルで、ここ2年近く変化はない。中国元に関しては、ここ1年投資魅力の低下トレンドが続いている。中国株式に対しても同様の傾向が続いている。
・ 日本株より米国株への期待が強いが、この傾向は1年以上続いている。
(※本稿執筆時点の12月上旬は、選挙期待もあって日本株ニーズが強いと予想されるので、次回調査はトレンドが変化する可能性がある)

 また、金融資産保有3,000万円以上という準富裕層を対象にゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントが実施した調査では、次のような個人の意向が示されている。

・ 全体として円預金選好の増加など、投資家の安全志向が強まっている。
・ 今後1年先で最も期待できる国としてブラジルとインドが挙げられているが、昨年2位の中国への期待は減少した。
・ ファンド選択で最も重視されるのは分配金、次いで投資対象の成長性となっており、昨年と順位が逆転、分配金指向が強まっている。

 次に、調査において個人投資家の潜在的ニーズを引き出すことによって調査目的に方向性を与えようとすることもよく行われることだ。例えば個人の安全志向が強まる中、通算損益をヒアリングすれば、過去パフォーマンスが良いものに投資家の注目が集まりやすい。

 また、個人のニーズを集めることで、制度や税制などの議論を進展させようとすることもよく行われる。例えば、証券業協会が毎年行う調査において、今年は次のことがスポットでの調査事項として挙げられている。

・ 投資に関わる譲渡益課税の軽減措置について(来年終了する軽減措置の延長ニーズを引き出すため)
・ 確定拠出年金制度について(公務員や主婦の加入を可能としたり、60歳前でも引き出せるような制度改正ニーズを明確化)
・ 教育資金確保のための税制優遇制度(あれば良いというニーズの確認)

 大手ネット証券会社4社が行った証券税制に関わるアンケート(自社顧客対象)では、約8割の個人投資家が軽減措置の延長を求めた結果となったが、これを利用してネット4社は証券税制の10%軽減税率延長を求めるオンライン署名を実施し、約70万人の署名を集めている。

◆ ニーズの活用

 投資家のニーズに関する調査は、新たな投資に活用されなければならない。加えて、新たな投資家の獲得にも利用が望まれる。そのためには、自社がターゲットとする投資家層に的を絞った個人投資家ニーズを把握する必要がある。例えば、投資家の区分法としては年齢層・保有金融資産額などがあるが、これに対して投資の目的を重ねてニーズをマトリックス的に把握した方が実際の投資行動に近づくことができる。高齢層が全て安全志向というわけではないし、若年層の投資が必ずしも投機的ではないだろう。個人の投資において、日々のトレーディングが目的である者と、資産形成のために毎月投資を行う者、資産運用として年間ベースの収益性を求める者とでは、そのニーズも大きく異なる。

 また、調査内容はネットであろうが対面だろうが実際の営業現場で個人投資家の目に触れるので、個々の投資家の目的に合って参考情報が見やすく、かつ分かりやすくあるべきだ。自分と同じ目的を持った他の投資家がどう考えているかというのは重要な情報だろうし、他の投資家ニーズを自分の顧客に伝えることで顧客とのコミュニケーション濃度は増していく。

 一方、資産形成を目的とする新たな投資家の獲得は、低成長・低金利の日本にあって金融業界の重要な課題の一つだろう。“貯蓄から投資へ”の本来の目的も、この資産形成層の投資拡大にある。しかし、対象とする人数は多いものの、1人当たり、1回当たりの投資金額が少なく継続投資対応となる上に、インターネット環境の整備も必要となるため、システムコストがかかる。このため、証券業界などでは政策的な支援(資産形成の為の投資制度拡大)を求めるということになる。

◆ 資産形成のあり方として検討されている施策と実現に必要な環境

 今年7月、政府の成長ファイナンス会議(内閣府)において、国民金融資産の形成支援を通じた成長マネーの供給拡大という目的のため、個人の投資について以下のことが取り纏められた。基本的には、各省庁において2012年度中に方向性が示される予定となっている。

①確定拠出年金の普及・拡充(厚生労働省)=限度額の使い残し対策は2012年度中に検討を行い2013年度中に実施へ。主婦や公務員などの加入対象者拡大については2014年度までに結論。など
②日本版ISAの所要の検討(金融庁)=譲渡益課税の軽減措置撤廃見合いで実施が予定されている現在の制度は一時的な仕組みなので、英国などの制度を参考に恒久化・拡大を目指して検討を進める。
③教育資金を通じた世代間の資産移転の促進(文部科学省、金融庁)=高齢者が保有する金融資産を教育資金として有効活用できるよう、資産移転に非課税措置などインセンティブを付与する方法を米英の制度を参考に検討する。
④不動産投資市場の活性化による資産デフレ脱却(金融庁、国土交通省)=J-REITの資金調達手段の多様化に関する改正法案を2013年通常国会に提出。また、高齢者が保有する不動産を若年世代へ移管し有効活用するための具体策について検討する。

以上のような制度が整備されれば、資産形成を目的とした新たな投資家層の創出が期待される。その受け皿となる証券会社や金融機関にとっては、次のような対応が必要になるのではないだろうか。

・ 投資家のニーズに合わせた商品・サービスの提供は当然だが、投資行動に不慣れな資産形成層に対して、自らの目標設定を行いやすい情報を提供することが求められる。個人の多様なニーズに対して、情報を簡素化しながら各々のニーズに合った情報提供を行うことが重要となる。例えば、自分と同じような目的をもった投資家がどの様な投資を行うかという情報は有効だろう。また、現在ネット証券会社が行っている「自分年金」というような、投資目的を明確化しそれに絞った情報発信と商品提供を行うというのも一つの方法だろう。
・ 有効な情報発信のためには、やはり個人投資家のニーズを把握することが重要になる。その方法としては、アンケート調査・自社顧客の投資行動分析が基本だろうが、一般の行動分析としてビックデータの活用も考えられる。ただし、調査にはコストがかかるので、他社との共同利用を前提とした方法が進むと予想される。
・ 個人への情報発信とニーズ把握には、投資家とのコミュニケーションが有効な手段となる。コミュニケーションが成り立たなければ資産形成層の投資ビジネスとして効率が悪くなる。対面営業でのノウハウとネット環境利用が相乗効果を生むようなビジネスモデルの創造が期待される。

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