JIPsDirect

高齢者の投資はどうあるべきか~勧誘ルール強化とその背景

2013年12月20日

■ 高齢顧客への勧誘ルールについて

 日本証券業協会は、本年9月13日に「高齢顧客への勧誘による販売に係るガイドライン」(案)を公表し、パブリックコメントを経て10月29日に概ね原案通りのガイドラインを制定した。同ガイドラインは、本年12月16日より施行されたが、証券会社は社内規定などの態勢整備を来年3月15日までに行うこととなる。一方、金融庁は11月1日に「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」の一部改正(案)を示しており、監督上の評価項目として高齢顧客への勧誘に係る留意事項を新設、次の点に留意して監督する予定だ。
①自主規制のガイドラインを踏まえて、社内規則を整備するとともにモニタリングの態勢整備を行うこと
②販売後、投資判断をサポートするなど丁寧なフォローアップを行うこと
なお、同ガイドラインの概要は、以下のようになっている。



 金融商品の販売に関するルールは、既に金融商品取引法上において業者に課せられる「適合性の原則」があり、証券各社は商品毎の取扱ルールを定めている。加えて2011年12月には通貨選択型の投信販売を念頭にした証券会社での販売管理強化を求める金融庁の意向を受け、日本証券業協会は投資勧誘に関する自主規制ルールを改正し、販売現場における顧客属性の的確な把握等を証券会社等に求めている。今回は、更に高齢顧客に的を絞って勧誘態勢整備を強化する動きだ。

■ パブリックコメントの内容とその留意点

 高齢者勧誘のガイドライン制定に先立ちパブリックコメントの募集が行われたが、63社・3名から290件の意見・確認等が寄せられている。その内容から中堅・地方証券会社からのものが多かったとみられるが、営業現場での問題認識や環境などを窺い知ることもあるので以下に纏めてみた。

【高齢顧客勧誘ルール全般】
 既に、2012年4月に改正施行した投資勧誘行為に関する自主規制において「勧誘開始基準」などが導入されており、その中で商品の特性・リスクに合わせて勧誘可能な顧客層の定義を行っていること・地方の対面営業では顧客層の高齢化が進んでおり、それに合わせて顧客管理を行っていることなどから、当該ガイドライン導入の目的を問うものが多かった。これに対して協会は、1月からのNISA制度導入を前に、投資未経験者・投資初心者である高齢顧客も含めてNISA口座での取引が開始されるためとしている。また、コールセンターでの取引は同ガイドラインの対象となること、インターネット取引は原則対象ではないこと、金融商品仲介業(個人)では、所属証券会社が事前承認やモニタリングなどのチェック機能を代替することも確認されている。なお、社内体制やシステム対応の準備で施行時期の延長を求める要望が複数寄せられたが、施行日そのものは原案通りとなっている。

【高齢者定義】
 同ガイドラインを顧客に説明するため、年齢制限の根拠を求めるものが相当数の要望としてあったが、協会からは家族からの「あっせん」申立てにおける顧客の年齢が80歳以上の場合が殆どであることが示された。また、同ガイドラインの適用を除外することが出来る「会社経営者、役員等」であり、かつ「支店長との頻繁な接触」がある場合の基準明確化を求めるものもあった。

【販売商品】
 先ず信用取引が同ガイドラインの対象外であることが確認されている。理由は、既にある投資勧誘の自主規制における取引開始基準において、顧客の適合性が判断されているからだが、当初は適用除外となる上場商品は現物取引とされていたものが、パブリック・コメントでの確認要望により修正されている。また、同ガイドラインの適用除外とすることが可能な「勧誘可能商品」として、レバレッジ型・インバース型のETF・ETNが含まれることも明確化されている。なお、「勧誘可能商品」の考え方だが、債券投資の通貨では米ドル・ユーロ・豪ドル、指数連動投信では日経平均株価・東証株価指数に限られており、一般的なバランス型投信は「勧誘留意商品」の方に含まれている。この線引きは投資リスク基準ということではなく、換金性や情報入手の容易さ・商品内容理解の難易度などが重視されているようだ。(※勧誘留意商品の選定は、あくまでも販売勧誘を行う各証券会社ベースで行う。)また、これら「勧誘留意商品」を高齢顧客に勧誘した際、受注を役席者が行うことになっているが、代替として内部管理責任者(要外務員登録)が行うことも可能としている。

【勧誘場所・方法】
 証券会社としては、勧誘した翌日に受注することに多少違和感があるようだ。翌日受注することの理由を高齢顧客に説明しにくいということもあるが、市場変動の影響を指摘する意見もあった。ただし、顧客が来店し、かつ役席者が同席している場合や、役席者と同行訪問して他の家族が同席している場合などは同日受注が可能となる。また、インターネット取引が対象外となることに対して、Web上での情報提供のあり方など「勧誘」の定義を厳格化すべきとの意見も複数あり、対面営業の証券会社から見て相対的にネット証券会社が有利になるのではとの危惧がありそうだ。

【約定確認・連絡】
 高齢顧客にとって、事前の役席者からの連絡・営業部員による勧誘・担当者以外からの約定後連絡と複数の人間による確認作業が重なるが、顧客の煩わしさを危惧する意見も複数あった。なお、同ガイドラインでの「勧誘開始基準」導入により、勧誘活動にストップをかける場合やモニタリングなどで役席者の業務負担は重くなりそうだ。

■ 投資家の高齢化とルール強化の背景

 前章で紹介したように、パブリックコメントに証券会社などから多数の意見や要望が寄せられたのは、顧客層の高齢化が進んでいるという問題がある。特に地方の対面営業での顧客高齢化が目立っているようで、パブコメに記載された或る証券会社では、70歳以上が顧客の33%に達しているとするものもあった。

 先ず投資家の中で高齢者がどのくらい占めているかだが、本年度の「個人投資家の証券投資に関する意思調査」(日本証券業協会、調査時期本年8月)では、70歳以上が個人投資家の22.0%となっており、2009年の18.2%から2割ほど上昇している。今回の自主規制の対象となる75歳以上の投資状況については、同じく協会が3年に一度実施している「証券投資に関する全国調査」(2012年11月実施分)から次のような状況が分かる。

【高齢者(75歳以上)の投資概況】
・高齢者の平均証券保有額は864.8万円で、個人投資家全体平均の491.6万円の1.76倍となっている。
・株式の保有率についてみると、個人は11.8%が保有しているが、高齢者男性では20.7%となっていて倍近い保有率となっている。
・投資信託についても高齢者男性の保有率は11.1%と個人全体の7.3%より5割ほど多い比率となっており、高齢者女性も7.7%と個人全体より高めだ。高齢者女性に関しては、最も保有されている投資商品は投資信託となっている。
・公社債も同様の傾向で、高齢者男性の保有率は7.5%と個人全体の3.5%の2倍の比率、高齢者女性も3.6%と個人全体よりやや高めだ。
・外貨建証券は全体の保有比率が1.7%と低いが、それでも高齢者男性は3.3%と倍近い比率となっている。

 一方、高齢者の投資に関するトラブルについては、勧誘に関する自主規制などの強化もあって、金融ADRの金融商品あっせん相談センターなどに寄せられる相談等の件数は最近減少してはいるものの、70歳以上が4割以上を占めている。また、(独)国民生活センターが昨年7月下旬に公表した全国の消費生活センターに寄せられた投資信託に関する相談は、相談者の約半数以上が70歳以上で、60歳代も含めると約8割を占めており、高齢者の相談が多いのが特徴となっていた。この相談内容を見てみると、投資信託の購入金額の平均は約1,200万円と高額で、購入形態は約5割が店頭、3割弱が金融機関や証券会社のセールス訪問によるもの、1割が電話での勧誘によるものとなっている。相談内容から問題点を大別すると、次のような点が挙げられる。

▶元本保証ではないこと等、リスクについての説明が十分ではない。
▶投資信託の契約を元々の目的としていなかった消費者が、トラブルに遭っている。(例えば銀行での預金目的)
▶しつこい勧誘や判断能力が不十分な者への勧誘など、勧誘対応そのものに問題がある。
▶商品内容が理解できず、解約に関する販売者の説明も不十分な場合もあった。
▶ノックイン型のように、デリバティブが組み込まれある一定条件を満たせば元本が保証されるが、そうならないケースの説明が不十分な場合があった。
▶毎月分配型で、分配金が運用益からではなく元本を取り崩して支払われることがあるが、この点の説明が不十分な場合があった。

 

■ 証券業としての顧客高齢化への対策は何か

 国民全体の高齢化が進む中、個人の投資に携わるリテール証券業もこの社会構造の変化に対応することが求められる。個人の投資行動を支えるという視点からすると、高齢者の投資リスクを一律に限定したり回避することが良いわけではなく、高齢者本人のリスク選好やリスク許容度に合わせた投資勧誘や助言活動を行っていくことが望ましい。そのために勧誘活動や受注行為・顧客の特性情報や預り資産の時価情報・提供する情報と求められる情報の管理など、可能なところからデジタル化を進めていくことが重要ではないだろうか。例えば、高齢者のインターネット利用についてだが、日本証券業協会が半年に1度行っているインターネット取引に関する調査によると、残高のある70歳以上の投資家のインターネット口座数は、本年3月末で218万口座あり全体の17.4%を占めるまで増加している。(※2008年9月末では、70歳以上の口座数119万口座全体の12.0%)スマートフォンやタブレット端末が普及し、ネット環境は高齢者にとっても身近なものになりつつある。これらの媒体を高齢者の投資行動支援に活用していくためには、勧誘行動プロセスの明確化や、提供する投資関連情報の簡素化・提供方法の効率化などが求められ、そのこと自体が営業活動全般の効率化に繋がる可能性もある。その反面、業務の変化を全てデジタル化で対応できるわけでもない。今後NISAが開始され、投資経験の浅い個人も自らの投資リスクと向き合う場面が増えていくと思われるので、自己責任原則などの投資教育も必要となるだろう。高齢者にとっての自己責任原則を支援するには、家族や社会からの視点・本人の尊厳を守ることなど多様な対応が求められる。これらはアナログ的な対面での活動が中心とならざるを得ない。

 一方、顧客の高齢化の中で、リテール証券会社としてどう収益性を確保していくかということも、従来からの重要なテーマとなっている。その営業戦略の一つとして、商品販売型から資産管理型への転換が一部のリテール証券会社で試みられている。最近、中堅証券会社などでも顧客と投資一任契約を結ぶSMA(Separately Managed Account)やラップ口座が増加している。(一般的には、投資対象商品が多様で専用のアドバイザーがつくのがSMA、ファンド中心に運用を行うのがラップ口座と言われている。)これらのサービスは、当初富裕層向けとして開発され最低投資金額も1~2千万円とするものが多かったが、この金額基準を300万円まで引き下げる動きが一部の地方証券会社などで出始めている。また、信託銀行などではラップ口座拡大を目指して、一定以上の残高のある顧客にがん保険や介護保険を付加するサービスを始めている。なお、日本投資顧問業協会の調べでは現状でのラップ口座残高は、本年6月末で8,655億円と規模が小さく、今後のリテール証券会社などの営業展開が期待されるところだ。

 現状のラップ口座は、運用会社など他社が運用するファンドの組み入れが中心で、資産残高に合わせて年間報酬額を顧客から得ている。これを、顧客からの報酬を外部流失させずに、投資の成果に合わせる成功報酬的な対価を得るためには、投資家の要望に合わせた投資一任契約を結ぶ必要があり、投資助言業としての態勢整備が必要になってくる。つまり、金融商品の販売から投資助言に重心を移す戦略の転換が必要になる。現在第1種・第2種と分かれた金融商品取引業、投資運用業、投資助言・代理業は、元来証券業から派生し分離されたものだった。前述のような対応を取るリテール証券会社がどの程度増加してくるか明らかではないが、販売者と運用者として利益相反のあるもの以外、そもそも投資に関連した証券業として包括していくというのも一つの流れかもしれない。

 顧客の高齢化や社会の成熟にあわせて、リテール証券会社が対面営業の利点を生かし、本来の投資に関する仲介者の立場を強めていくという考え方に立ち返ってみたい。

  • JIPs Direct最新号(PDF)
  • バックナンバー