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個人のデリバティブ利用は進むのか

2014年04月25日

■個人のデリバティブ利用の現状

 日本市場が、国の成長戦略に沿った国際的な競争力を持つアジアの中核市場となるためには、現物市場の機能強化は勿論のこと、同時にデリバティブ市場の整備も欠かせない。それは、現物・先物・オプション間の裁定取引が行われることで、それぞれの取引の流動性が向上し、かつ市場全体で取引の厚みが増すためだ。一方、現物市場と同様に市場での取引の健全性を維持するためには、取引に参加する投資家層の多様性を維持することも必要だ。特に、海外投資家や機関投資家などと異なる投資行動をとる個人投資家の参加を増加させる取り組みが、日本のデリバティブ市場の重要な課題となっている。

 先ず3月24日に大阪取引所に統合された上場デリバティブだが、アベノミクス相場によって個人投資家の取引も大きく増加している。例えば、取引全体で見ると2013年は取引金額ベースで前年の倍以上増加しているが、それは個人の取引でも同様の傾向にある。ただし、有価証券オプション(かぶオプ)を除いて、個人が占める取引シェアはあまり変化がない。これは、現物市場において個人投資家のシェアが、2013年は28.1%と前年の18.1%より大きく増加(三市場合計の取引金額ベース)したこととは対象的だ。個人の取引が多い日経平均株価指数(日経225mini)では、2013年の個人の取引シェアは20.2%で前年と比べて殆ど変動がない。有価証券オプションに関して個人シェアが増加したのは、上場ETFのプット・コールの取り扱いが始まった影響とみられている。

 なお、先月の上場デリバティブの市場統合について、投資家には次のような影響があった。

❶TOPIXなど東証上場商品の取引時間が、午後11時半から翌日午前3時まで延長された。
❷指数先物とオプションのスケジュールは同一となった。
❸東証・大証(統合後は大阪取引所)に分かれていた証拠金管理が統合された。

特に❸については、次のような裁定取引事例が挙げられる。(SBI証券ホームページより:実際の必要証拠金額は市場環境により異なる。)

【従来】
日経225 1枚買い 690,000円 
TOPIX 1枚売り 510,000円=必要証拠金 1,200,000円

【統合後】
日経225 1枚買い 690,000円
TOPIX 1枚売り 510,000円=必要証拠金 271,564円
(※注文は発注時は各証拠金が必要)

 先物取引間の裁定取引における必要証拠金は、昨年7月にデリバティブの清算機関が日本クリアリング機構に統合され、日経225とTOPIX間のリスク相殺が可能になったため減額された。リテール証券での証拠金相殺可能時期は各社によって異なっているものの、今後NT倍率を意識したような取引が増え、個人のTOPIX先物利用が増加する可能性もある。

 一方、個人が利用する店頭デリバティブの代表であるFX取引は、外国為替変動が小さくなっている最近の市場環境にあっても、アベノミクス前に比べ相当量の取引額を維持しており、個人の保有するポジションの水準も高い。

■そもそもデリバティブ取引とは何か

 デリバティブの形式は次の三つに分かれる。

【先物取引】
 期日を決めて定型化しやすいので、基本的には取引所上場商品となることが多い。投資対象によって株価指数先物・FX取引・商品先物があるが、個人投資家の利用が最も多いのはFX取引で、口座数は300万口座を超えている。次いで日経平均株価指数を対象とした株価指数先物取引だが、利用者はFX取引の10分1以下と見られている。なお、FX取引においては取引所取引より店頭取引の方が優勢となっているが、その主な理由は❶取引所は上場後の商品性を変更しにくいが、店頭取引では個人ニーズに合わせて小口化やレバレッジ設定など行いやすい❷店頭取引を投資家に取り次ぐ証券会社の収益は、実質的な取引手数料以外に注文を取り次ぐ先の金融機関などからの取引相殺収益などのキックバックがあることなどが挙げられる。

【オプション取引】
 先物取引の派生商品とも見做すことができ、売る権利(プット)・買う権利(コール)の条件を定めて売買する。基本的には、取引者のニーズに合わせた商品設計を行うので店頭取引が中心だったが、オプション自体に流動性を持たせて売買を容易にするため取引所に上場するものもある。投資対象は株価指数と通貨が主なものだが、上場された有価証券オプションは「かぶオプ」と呼称されている。この「かぶオプ」は証拠金をもって取引されるが、オプション価格は変動率(ボラティリティ)・権利行使できるまでの期間の価値・行使の条件などから成り立っているとされている。専門知識のない個人には理論価格の算定は難しいが、逆に市場で取引されるオプションが十分な流動性を持つ場合、裁定行為が働いて理論的価格に近いと見做すことも出来る。ただし、オプションは買うだけではなく売ることもできので、「かぶオプ」で売った場合には証拠金にレバジッジが掛かった損失も被る場合があり、取引全体のリスク管理が必要だ。なお、店頭オプション取引を小口化して売値・買値両方を表示するeワラント、為替オプションを小口化して同日中に取引期間終了するバイナリーオプションなど、個人投資家向けに小口化・定型化された小規模なオプション取引も開発されている。

【スワップ取引】
 一定期間にわたり、二つのキャッシュ・フローを交換する取引で、比較的長期かつ大型の取引となることが多く、金融機関同士の取引に使われている。投資対象は、金利スワップ・通貨スワップなどが中心だが、リーマンショック時に問題となったCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)は、債券発行者の信用リスクをヘッジするために開発されたものだった。想定元本が大きく取引者も限定(金融機関か機関投資家など)されているので店頭取引だが、経済に与える影響が多いので、金利スワップやCDSに関して決済のみは清算機関に集中させるように各国の金融当局によって義務化されている。なお、株価や指数の差金取引を行うエクイティ・スワップが、個人投資家向けに小口化されたものがCFD取引(差金決済取引)となっている。

【他の金融商品への組込】
 個人にとってデリバティブ取引を単独で見た場合、分かり難さが残る。預金やファンド・債券に組み入れることで、投資タイミングを同一にし、商品性を定型化することで販売しやすくすることが金融機関で行われている。デリバティブ性の強い投信や仕組債・仕組預金などがあり、また特定の投資家ニーズに応じた私募仕組債の組成も行われている。ただし、店頭デリバティブの性格に類した仕組債・投信の販売に当たっては、適合性の原則に沿った勧誘の適正化と、リスク説明の徹底など求められている。

■取引拡大、取引縮小それぞれの理由は

 前章で説明したようにデリバティブ取引は相対の個別契約から始まり、最初は金融機関同士、次に金融機関と大口の機関投資家、そして金融機関と企業などのように大口の金融取引として徐々に広まっていった。

 個人の利用が多いFX取引(外為証拠金取引)については、1998年の外為法改正による外貨取引の自由化で可能となり、インターネットを利用した取引環境が整う中、急速に取引が拡大した。個人の成功神話が多く生み出された一方、取引を仲介するFX業者の問題もまた顕在化した。そのため、次のような業者や取引に関する規制が取り入れられている。

・2004年4月=改正金融商品販売法で、業者に対してリスク等の説明義務を課す
・2005年7月=改正金融先物取引法で、不招請勧誘禁止などの行為規制・広告規制・外務員登録制などが導入
・2007年9月=上記規制が金融商品取引法に受け継がれ、FX業者は第一種金融商品取引業として登録制へ
・2010年2月=改正金融商品取引業等に関する内閣府令において、❶顧客の証拠金について区分管理信託に関する規制❷ロスカット・ルールに関する規制❸レバレッジに関する規制を新たに制定

 この規制が強化されている間においても、FX取引は店頭取引ベースで月間20兆円程度(2005年)から月間300兆円程度(2014年2月)まで大きく拡大している。

 このように個人にFX取引が浸透した理由については、次のようなことが考えられる。

■投資対象が外国為替であり、ネット環境の発達に伴って、現在だと誰でも何時でも情報を入手できる
■市況の方向性(相場のストーリー)が個人にも推定しやすい
■取引が小口化・単純化され、投資の初心者にでも取引しやすい

 一方、期待されてもそれほど個人に浸透していないものに、eワラントやCFD取引が挙げられる。

 eワラントは、オプション取引のコール・プットを小口化して千円単位でも取引できるようにしたもので、2000年3月にゴールドマン・サックス証券会社が始めている。この商品の特徴としては、個人投資家のオプション買いのみに応じる仕組みなので、最大損失もeワラント購入代金に限られる。また投資対象も株式から商品まで多岐に渡っていた。個人のオプション取引推進商品として期待され、一時は主要なネット証券会社で取り扱っていたものの、現在はSBIと楽天の2社に限られる。

 次にCFD取引だが、この原形は欧米の投資銀行などがヘッジファンドなどに提供していたエクイティ・スワップと言われており、これを小口化・定型化したものだ。取引の仕組みはFX取引と同じなので、2008年頃より取り扱う証券会社が増え、原油や金などの高騰時には一時的に注目されていたが、最近は取り扱う証券会社も減少している。また、取引プラットフォームを証券会社に提供する業者(ホワイトラベル)も、3年前は4社あったが現在は実質的に1社のみとなっている。

 FX取引とeワラントやCFD取引の違いを個人投資家の立場から見直すと、eワラントやCFD取引の方が実際の取引を行うまでに選択しなければならない条件が多い事が挙げられる。このことが、個人投資家やサービスを提供する証券会社の負担となっている。またCFD取引に関しては、実質的な取引の受け手となるカバー業者による個別銘柄のレバレッジ変更や取引規制が多いことも指摘されている。

■それぞれの期待

 個人のデリバティブ取引では、FX取引や株価指数先物取引など、一定期間に投資対象の反対売買を行うことを前提とした先物取引が中心になっているが、現状の取引対象は限られている。例えば、株価指数ではTOPIXより日経225の方が個人に選好されやすい。しかし、第一章で紹介したように、NT倍率(日経平均をTOPIXで割ったもの)に注目したTOPIXと日経平均先物間の裁定取引を個人トレーダー層が行うようになれば、個人のTOPIX取引は大きく増加する可能性もある。清算機関の統合によってリスク相殺されて必要証拠金が大きく圧縮されることは、資金が限られる個人にとってメリットだが、同裁定取引に個人トレーダー層を参加させる動機付けが必要だ。そのため、NT倍率とそれぞれの売買動向及び取引パターンに関する情報が個人トレーダー層に提供されることが期待される。

 個人のオプション取引に関しては、単独の取引ではやはりハードルが高いようだ。オプションのみを売買するのであれば、オプションの主な構成要素であるボラティリティー(変動率)を管理しなければならないことと、個人のデリバティブ取引に対するロスカット・ルールの適用によって売りポジションを持つことは、個人にとって相当の注意を要する。ただし、通貨オプションの一種であり日中に取引が終了するバイナリー・オプションは、投資家が基準価格に対して上回るか下回るかを選択すればよく、収益性は限られるものの、簡略化・小口化され、かつ昨年12月に施行された自主規制により、投資家自らのリスク管理も行い易くなっている。金融先物取引業協会による統計では、2月の月中取引代金は420億円、口座数は約26万口座となっている。個人の超短期トレーディングに関しては批判もあるが、個人のオプション取引利用拡大のためには一定の評価を期待したい。

 総じて、個人にとってデリバティブ取引が難しいのは事実だが、金融機関の中から裁定取引を専門に行うプロップハウスが生まれたり、機関投資家の中から多様な投資戦略を持つヘッジファンドが育ったりしたように、個人投資家についてもデイトレイダー以外に多様な個人トレーダー層が生まれたり、バイ&ホールドだけではなくヘッジファンドの投資戦略を真似た個人投資家層が出現しても良い。そのためには、原資産に派生した取引であるデリバティブ利用は欠かせない。今後、個人のデリバティブ利用が進む可能性がある方向性として、次の三点が期待される。

❶個人トレーダー層の取引高度化=個人がヘッジファンドやプロップハウスの様にHFT(高頻度取引)を行うのは難しいだろうが、一定の投資戦略をパッケージ化して個人トレーダーが自動的に売買を行うことがFX取引ではある程度可能となっている。今後も、デリバティブ取引において投資戦略・システムトレード両面で個人トレーダー層の取引の高度化が進む可能性がある。

❷裁定取引を中心とする新たなる個人トレーダー層=先にNT倍率を使った裁定取引を紹介したが、本来は現物取引とデリバティブ取引間の裁定取引が個人レベルでも行われて良い。そのためには、現物・デリバティブを合算させたポジション管理と取引シミュレーションが必要だが、次世代のネット証券会社の課題かも知れない。

❸個人投資家のリスク管理手法としてのデリバティブ利用=個人の金融資産全体のリスク管理を目的としたデリバティブ利用が望まれるが、対面営業もしくは投資助言業での助言行為となるので、資産管理のプロとしてのデリバティブ活用能力が求められる。勿論、仕組債のようにパッケージ化商品も一つの在り方だが、対面営業における助言活動による報酬対価がリテール証券会社の収益源の一つとなることに期待したい。

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