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進化するREITとその課題 ~ 成長戦略と超低金利の中で個人投資の受け皿となるか

2014年09月25日

■J−REITを取り巻く環境

 主たる投資対象を不動産とする投資法人の設立が2000年の投信法(投資信託及び投資法人に関する法律)改正で可能となり、最初のJ−REIT2銘柄が2001年9月に上場されてから13年が経った。リーマンショック時には、資金繰りなどで実質的に破たんしたり、他の投資法人に統合される銘柄もあったが、本年は3銘柄の新規上場もあり、現在46銘柄となっている。そのJ−REITは、次の進化に向けて今大きく変わる可能性があるが、まず現状の環境を見てみたい。

 J−REITは、8月末で46銘柄時価総額8兆8,253億円で、その保有する不動産の取得価格総計は12兆円を超えている。用途別の不動産は下の円グラフになるが、最近は住宅やホテル・物流施設などの物件取得も増え、多様化が進んでいるようだ。

 商状についてみると、東証REIT指数では年初1511.52だったものが、8月末取引では1648.90と9%の上昇となっており、同期間のTOPIX指数は1.9%の低下だったことに比べその堅調さは際立っている。その影響で、取引所における売買金額は増加傾向となっており、月間ベースで年初の5,000億円程度から最近は6,000億円と2割程度増加している。また、主要な投資家の売買動向では、銀行を中心とする金融機関の毎月200億円前後の継続した買い越しの一方、個人の毎月200億円超の売り越しとなっており、投資信託は1~3月の買い越し、海外投資家は5~6月の買い越しが目立っている。個人の売り越しが多いのは、J−REIT出資口の公募ファイナンスの影響で、個人投資家の公募玉処分売りが一定水準あると見られる。

 その公募ファイナンスは、今年に入って8月末までに17件2,973億円の調達がなされており、これに新規公開の3件1,474億円を加えると約4,000億円超の資金が市場から調達されているが、前年同期比では約4割の減少となっている。

 一方、注目されている日本銀行による市場からのJ−REIT買い付けは、本年に入って8月末までに33回122億円に留まっているが、同オペレーションが始まってからの買付総額は1,550億円に達しており、昨年4月に公表された本年末までの買付枠は150億円となっている。今後、ETFとともにJ−REIT買付枠拡大が関心を呼びそうだ。

 次に、制度上の変更として二点あるが、一点目は投信法の改正である。これまでのJ−REITの公募ファイナンスは、投資口での公募増資か投資法人債発行しかなかったが、新投資口予約権制度を導入してライツ・オファリングを可能とする資本政策の柔軟化を進める。これに対応して金融商品取引法等では、投資家の信頼を高める仕組みとして、J−REIT関係者にもインサイダー取引規制の適用や資産の算定根拠に対してより詳細な情報開示を求めるなどの改正が行われた。

 二点目は、ヘルスケアのリート上場を目指した制度整備などである。日本再興戦略(2013年6月)において「ヘルスケアリートの活用に向け、高齢者向け住宅等の取得・運用に関するガイドラインの整備、普及啓発等を行うこと」とされたことを受け、現在関係官庁や市場関係者により本年度中の銘柄上場を目指して準備が進められている。

 

■投信法等改正のポイントと想定される影響

 昨年、投信法の13年ぶりの改正が行われ、J−REITのビークルとなる投資法人に関して以下の大規模な改正が実施される。(❶は本年12月1日より、それ以外は本年4月1日より施行)

❶上場会社並みに資本政策が多様化・柔軟化される。その中で、新投資口予約権制度創設のメリットが大きいとみられるが、これは投資法人が上場会社のようなライツ・オファリングでファイナンスすることを可能とし(ライツ・オファリング制度の導入)、また新投資口予約権を利用して債券やローンの発行を有利に行うことも出来る。自社株取得の如く、市場から投資口を取得できる規定も設けられる(自己投資口取得の解禁)。その他に、出資総額等から損失を控除して処理する制度も整えられる(減資制度の導入)。

❷投資法人の簡易合併の要件が整えられる。今までは、発行可能出資口の範囲で吸収する投資法人の投資家への出資口の交付が認められていたが、これに替えて発行済投資口の20%以内という要件へ変更された。

❸上記の資本政策の多様化や簡易合併制度整備に対して、既存投資家の牽制が効く仕組みとして投資法人に対して投資口の発行を差止め請求できる制度が導入される(投資口発行差止請求制度)。

❹投資家の信頼を高める仕組みとして、資産運用会社が運用委託を受けている場合、投資法人と資産運用会社の利害関係者の間で不動産等の取引を行う際には、事前に投資法人の役員会の同意を得なければならない制度が導入された(事前同意制度の導入)。また、J−REIT毎にばらつきがある取得不動産の鑑定評価書の概要について、開示項目を統一するとともに、鑑定評価額の算出根拠に係る詳細な情報の公表が求められている(鑑定評価算定根拠の詳細開示)。

❺今までは投資法人による他法人株式の過半数取得が禁止されていたが、投資法人による海外不動産の間接取得を認めるため、現地国の法規制で直接不動産を取得出来ない場合に限り、海外不動産投資法人の過半数取得が認められた。

 上記投信法の改正と併せて金融商品取引法では、J−REITに対する投資家の信頼を高める運営・取引の透明性を求める次の改正が行われている。

❻今までは対象外だったインサイダー取引規制について、投資法人だけではなく資産運用会社・その親会社のスポンサーにまで対象を拡大した。またインサイダーの対象となる「重要事実」には、固定資産の10%以上の資産の取得・譲渡や、営業収益の10%以上の賃貸などの経常的な取引が含まれている他、スポンサーの交代などの決定事実、災害や訴訟などの発生事実、決算内容や分配金など決算に関する事実、その他投資判断に著しい影響を与えるものといったバスケット条項も含まれている。

 今回の施策の目的は、リーマンショック時のようなマーケット変動のインパクトを軽減することとされている。例えば投資口が資産実態以上に市場で売り込まれた場合、投資法人は自社の投資口を買い付け、市場価格が戻ったところで自社投資口を売り出して資金調達を行うことも出来る。また、ライツ・オファリング制度も導入されることで既存の投資主の選択肢も増え、より多くの投資家を当該出資口投資に参加させることにもなる。

 一方、J−REITのガバナンス強化は投資法人のみならず資産運用会社やスポンサーにも及び、当面は体制整備のためのコスト増になると見られるが、 J−REIT関係者は、より多くの投資家の信頼を得るために一層の適切な情報開示とインサイダー情報管理を行っていく必要がある、というのが今回の法改正のもう一つの主旨でもある。投資家にとって投資判断を行い易いオペレーション(対象資産の売買等)や、それに関係した情報開示が求められている。

■ヘルスケアリート等への期待

 上場を睨んでヘルスケアリートへの取り組みの動きが活発化している。ヘルスケアリートは既に私募リート(投資法人形式)や私募ファンド(匿名組合方式)で組成されているが、広く投資家の参加を可能とするJ−REITとして上場するために、それぞれの取り組みが目立っている。今年に入って新生銀行や大和証券がヘルスケアリートの資産運用会社を立ち上げ、年内の上場を目指すことを表明しているが、投信協会では「ヘルスケア施設供給促進のためのREITの活用に関するガイドライン」(本年5月15日公表・実施)、国土交通省では「高齢者向け住宅等を対象とするヘルスケアリートの活用に係るガイドライン」をそれぞれ公表しており、東証でも上場推進に向けた事業者等へのサポートを始めている。

 ヘルスケアリートの対象施設は、「サービス付き高齢者向け住宅」「有料老人ホーム」「認知症高齢者グループホーム」で、既にJ−REITの中には数%規模で運用資産としているところもあるが、東証では運用資産の50%超がヘルスケア施設である場合をヘルスケアリートとしている。一般的なJ−REITと大きく異なる部分は、オペレーター(実際のヘルスケア事業の実行者=通常のJ−REITの場合の資産運用会社に相当)の業務遂行力の影響が大きい点だ。J−REITの分配金原資が対象不動産の借り手の賃料をベースとしているに対し、ヘルスケアリートは施設利用者である高齢者の利用料がベースになる。この利用料支払いは、利用者のオペレーターへの信頼感が前提となっているので、結果としてオペレーターの業務執行力がヘルスケア施設の資産価値にも大きく影響してくる。そのため、各ガイドラインでは次のような配慮がなされている。

【国土交通省ガイドライン概要】
 ヘルスケア施設の取引に際して、利用者へのヘルスケアリートの仕組みを周知するとともに、ケルスケア施設の適切な運営に係る関係法令や通知等の確認、及び行政指導等への対応を確保すること。また、利用者の安心感確保・オペレーターとの信頼関係構築や運用状況の把握に努めること。等

【投信協会ガイドライン概要】
 適切な資産評価のために、オペレーターの事業運営能力や経営の安定性等の事業評価を行う必要があるが、オペレーターの実情を勘案した情報収集を行うこと。また、利用者に対しては不安を惹起することが無いように情報提供に努めること。投資家に対してはオペレーター自身や事業内容に関するヘルスケア施設特有の情報を開示すること。等

 なお、上場ヘルスケアリート活用のメリットとして次の事が東証より示されている。

●ヘルスケア事業会社は、施設をJ−REITに売却することで事業強化や新たな施設運営の資金が確保でき、自らはオペレーターとして施設をリースバックすることで事業を継承することが出来る。また、オペレーターとしての一定の情報開示を行うことで信用力が増す場合もある。

●J−REITの投資家にとって、運用資産の多様化が図れ分散投資効果が狙えるし、ヘルスケア施設に対する将来的な需要も強いので、安定的な投資対象として期待できる。

●利用者にとって、上場ヘルスケアリートは政府や取引所等の一定の監督下に置かれるため、オペレーターによる入居施設運営の透明性向上やサービスレベル維持などへの安心につながることが期待されている。

 また、J−REITでの運用資産多様化の一環として、投信法施行令等改正で投資法人の投資資産として再生可能エネルギー発電設備及び公共施設等運営権を追加する等の規定が整備され、本年9月3日より施行となっている。再生エネルギーファンドやインフラファンド上場に向けての法制度整備も進んでいる。

■個人投資家からみた投資対象の多様化と課題

 本年4月7日に公表された年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の「国内株式運用受託機関の選定及びマネジャー・ストラクチャーの見直しについて」では、J−REITへの投資をスタートすることが正式に表明された。GPIFを始め機関投資家がポートフォリオ構築を語る時、よくオルタナティブ投資という言葉が使われるが、これは伝統的な投資資産である債券や株式とは異なるヘッジファンドや不動産・商品・デリバティブなどを指し、代替投資とも言われる。この中に、J−REITも含まれる。

 個人投資家にとっても、J−REITは代替投資になるはずだ。リスクは株式投資より低く、国債や社債への投資より多くのリターンが期待できるミドルリスク・ミドルリターンの投資対象として、預金や債券の代替に個人のJ−REIT投資が増加することが期待されている。例えばアナリストなどの実証研究では、外債とJ−REITを同額投資した場合とそれぞれ単独で投資した場合のリスク・リターンを比較すると、同額投資した方はリターンは双方を足したものだが、リスクは分散投資効果もあって、単独で投資するより大きく減少することが示されている。

 個人がJ−REITで注目するのは、その不動産投資内容と分配金利回りだが、次のような投資指標も利用されている。

●NAV(Net Asset Value)=純資産を発行済み投資口数で割ったもので、株式の場合のPBRに相当し、市場価格の割安・割高の度合いを判断する参考値になる。株式の場合の純資産は貸借対照表上の純資産だが、J−REITの場合は不動産を時価で評価したものを利用するので、資産の殆どが不動産のJ−REITでは不動産時価算定への信頼性も重要になる。

●FFO(Funds From Operation)=純収益に減価償却費と不動産の売買損益を加えて算出する。株式のPCFR(キャッシュフロー倍率)に相当するが、不動産賃貸事業等から実際どれだけの現金を稼いだかわかり、J−REITの正確な現金分配力を判断する事を可能にしたもの。
※上記2つの指標は、1投資口当たりの数値で利用し、J−REIT銘柄間の比較に利用する場合が多い。

●LTV(Loanto Value)=有利子負債を総資産で割ったもので、この数値が高ければレバレッジが効いて利回り向上が期待できるが、同時に金利上昇の影響も受けやすくなる。

 現在東証に上場されているJ−REIT46銘柄の平均した市場価格は8月末で32.8万円、平均予想分配金利回りは年率3.68%となっており、低金利下の日本では個人投資家にとっても魅力ある投資対象だろう。

 また、一般の上場企業の公募増資に比べてJ−REITのファイナンスは調達規模や希薄化率が大きかったりするが、それでも最近のJ−REIT公募銘柄の市場価格推移が概して堅調なのは、ファイナンスにより取得する物件が明確で、その投資効果も想定しやすい事が影響している。つまりファイナンスの目的と効果が投資家に分かり易くディスクローズされているためで、上場企業のファイナンスでも範とすべきだろう。12月以降、ライツ・オファリングがJ−REITにも解禁されれば、投資口を保有する既存投資家の選択肢が増え、結果としてJ−REIT自体の価値を押し上げる可能性もある。

 一方、課題は投資対象の多様化で、高い投資利回りが期待できる新たな投資対象の発掘も必要だが、ヘルスケア施設や再生エネルギー施設など個人の関心が高い物件の採用が求められている。また、海外投資家や個人投資家の一層の投資を呼び込むため、行政・市場関係者等で上場企業のコーポレートガバナンス強化に動いているが、J−REITの場合、スポンサーなど関係者との不動産取引の透明性の向上で、投資家の信頼感向上を目指す必要がある。

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