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HFT(高頻度取引)規制は必要なのか

2016年07月26日

 取引の高速化が進む中、アルゴリズムを使って高速・高頻度で取引を行うHFT(High Frequency Trade)の存在感が増している。市場取引に占める割合(約定ベース)は、米国では5割程度、欧州でも4割程度を占めており、東証でも既に4割を超えている。

 HFTは、売買注文を細分化して売り買いを繰り返すので、通常の売買注文に比べ注文件数が格段に多くなり、また同時にその取り消しも多くなる。HFTが利用するコロケーションサービスによる東証全取引に占める注文件数ベースのシェアは、本年3月には75%に達したとされている。そのため、HFTは取引の流動性向上に寄与してるのは間違いない。ただし、通常時はとの注釈がつくのは、2010年5月に米国で発生したフラッシュクラッシュで、HFTで利用しているアルゴリズムが、異常な値動きに過剰反応して、株価の急落やその後の急反発を助長したのではないかとの疑いが拭えないためだ。

 一方、HFTが不公正取引に利用される可能性について、欧米では次の指摘がなされている。(金融審議会市場ワーキンググループ平成28年5月13日事務局資料より)

<EU>
高頻度なアルゴリズム取引技術は、他の形態の取引と同様、不公正取引に利用される可能性があり、HFTの技術的優位性が、より大規模な不公正取引を可能にしている懸念が払拭されない。
<米国>
複数の取引所に同時に出された注文でも取引所毎に到達時刻に僅かな差が生じることから、これを利用して、高速回線で先回りする(ある取引所に出された注文から、他の取引所に出されている注文を予測して、ポジションを構築する)取引等があるとされる。

 日本においても相場操縦行為として摘発されたものが複数出てきているが、他者のHFTのアルゴリズム取引が反応することを前提に、見せ玉行為や指値の変更を高頻度で繰り返すことで、自らの取引を優位に導こうとする相場操縦事案などがある。また、米国のような複数の取引所を前提とした取引はないものの、複数の証券会社のダークプールやDMA(Direct Memory Access)を利用して、他者の売買意向に先駆けて自らの売買を有利に行おうとするフロントランナー的行為や相場操縦行為の可能性も市場関係者より指摘されている。

 今までのHFT規制議論の背景には、ごく少数のHFTを使う者とHFTを使えないその他大勢の投資家の間の不平等感があり、ヘッジファンドと同じように何か市場の大きな障害が発生した場合、疑義の対象とされることもあった。しかし、HFTのアルゴリズム取引と高速・高頻度取引は、市場におけるイノベーションであることに間違いはない。

 2010年から導入された東証arrowheadやその後始まったコロケーションサービスによって、日本市場の取引機能が世界水準に追いつき、海外投資家の資金を国内に呼び込むインフラとして市場取引機能が整備された。HFTは、そのインフラの利用手法に過ぎないが、今や取引量が大きくなったのでHFTとしての個別の管理・監視が必要だというのがグローバルマーケットの流れになっている。

 HFTの特徴であるアルゴリズム取引や高速・高頻度取引に対する管理・監視は、現在HFT業者から取引を受注する証券会社やコロケーションを運営する取引所側の各自の責務において、既存の規制を前提に行われているが、その内容は投資家や外部には分かり難い。そのため、HFT独自の規制を行うというのが世界的な流れになっており、欧州では第二次金融商品市場指令によってHFT業者を登録制とし、新たに体制整備やリスク管理義務・当局への報告義務を課す規制(2014年公布)が2018年より実施予定となっている。同様の規制は米国でも昨年11月にSECによるパブコメ(規制案概要は下図)が実施されている。日本でも金融審議会においてHFT規制の議論が始まったが、欧米と同様の規制案が策定される可能性が高い。

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