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証券会社における私募債の扱いについて ~ 金融商品としての課題

2016年08月26日

■ 私募債とは何か

 私募債とは何かについて見直すことから始めたい。私募債に関する制度の改革は次のとおり。

・1993年以前 社債発行そのものが、旧商法では発行額が制限され、発行するための基準(適債基準)や発行後の財務上の制限(財務制限条項)なども厳格だった

・1993年(平成5年) 商法改正で社債権者保護のために社債管理会社制度が導入されたが、最低券面1億円以上(プロ投資家向け)若しくは社債一口の最低額が発行総額の50分の1を超える場合(販売可能数が50名未満)に限り社債管理会社設置義務を負う必要がなくなった

・1996年(平成8年) 適債基準・財務制限条項が撤廃された

・1999年(平成11年)10月 普通銀行の社債が解禁され、これにより銀行保証の付いた私募債の発行も可能になった

・2000年(平成12年)4月 中小企業の長期資金調達に利用することが可能な特定社債保証制度(現行は、純資産5千万円以上で財務基準を充たした中小企業は利用でき、私募債発行額の80%まで信用保証協会が保証)が中小企業庁によって始まった

・2003年(平成15年)3月 中堅・中小企業の私募債を原資産とするCBO(Collateralized Bond Obligation債券担保証券)が、東京都債券市場構想の中でみずほ銀行によって組成される

・2006年(平成18年)5月 会社法施行でそれまで私募債は株式会社しか発行できなかったが、合同会社などすべての会社形態での発行が可能になった

 一方、金融商品取引法上の私募は、私募債が同法2条1項に定める有価証券で50名未満(少人数勧誘)となった。また、発行額が1億円を超える場合は、私募のために有価証券届出書が提出されておらず継続開示義務が課せられていないことや、勧誘を行う際に譲渡制限の内容を投資家に告知する必要がある。

 発行者からすると、調達額が少額に限られる場合や投資家が50名未満に限定される場合、会社法上の社債管理会社設置コストや金商法上の勧誘に伴う継続開示コストが掛からないため、社債発行に係るコストを抑えることができる。そのため、政策的に中小企業の資金調達手段の多様化を目指した施策の一環として、中小企業などの私募債発行が行政上推進され、一部保証や私募債発行費用の補助金対応などが行われている。

 また、私募債は証券化商品などの小規模な発行に関しても利用されることが多く、例えば証券化対象の原資産が数十億円規模であっても、その原資産を保有する会社Aに対して融資や投資を行う会社Bが発行する私募債は、社債期日を複数にして毎月継続的に発行していけば、一度の私募債発行が前述のように小規模でも、合計すると相当金額の規模になることが可能だ。証券会社の扱う私募債は、この方式が多用されている。

■ 個人向け金融商品としての利用

 証券会社が個人投資家向けに取り扱う私募債は、大きく分けて2つ投資対象がある。

 1つは、デリバティブを組み込んだ仕組債を私募債として個人投資家向けに取り扱うケースだ。一般的には、証券会社が大規模に仕組債を売り出す場合、金商法の継続開示制度に則って届出書を提出し目論見書を利用して勧誘を行う。一方では、富裕層などの個々の投資家ニーズに沿った商品を提供する場合、商品設計の自由度が高い少人数を対象とした私募債で対応することも多い。この場合、海外SPCや海外金融機関を発行者とした仕組債を、国内で私募債の売出しとして行うが、商品性やリスクの説明は契約締結前交付書面をもって投資家に伝えられる。下図の仕組債イメージ図は、関係者やその機能を簡略・省略して記載しているが、実際の仕組債を私募として取り扱う証券会社がアレンジメントを行うので、発行スキームの販売者としての意向が強く反映される場合が多い。

 もう1つは、比較的小規模の証券化商品としての私募債で、代表的なものは昨年から話題となっている診療報酬等を証券化した、いわゆるレセプト債だ。このレセプト債での私募債利用事例を、証券取引等監視委員会の参考資料(昨年破綻したレセプト債発行者の私募債を取り扱っていた証券会社への行政処分勧告時の資料)等を基に以下に説明したい。(正常に運営されているレセプト債発行者も多いが、発行スキームは基本的に同じ)

【レセプト債の発行概要】
・レセプト債の発行を目的とする会社を設立(私募債発行のための器の機能のみ)
・病院等から診療報酬債権等(介護報酬が含まれる場合も)を買取る目的で上記の会社が私募債を発行。なお、買取る診療報酬は対象件数が多い方がリスクを減少させるが、これは中小企業の私募債を多く集めた合成証券CBOと同じ考え方
・病院等から診療報酬債権の買取りは、通常複数年の契約で毎月買取りが実行されていくが、社債の発行は契約に合わせて期日が決まっている訳ではなく、1年程度とするものが多い

【レセプト債運用のポイント】
・病院から買取る診療債権等は、各契約書に定められた料率で割引かれており、実際に受け取った診療報酬等の差額が、私募債のアレンジャーの報酬、私募の取り扱いを行った証券会社の販売手数料、私募債の投資家への利払い、発行会社の運営費用等に充当される
・診療債権の支払い元は、社会保険診療報酬基金・国民健康保険団体連合会・市区町村で支払いの安全性は高いとされている
・私募債発行会社の運営は、アレンジャーが実質的に行うことが多い
・社債管理会社は設置されないが、私募債発行会社の運営が投資家のために行われるよう監視する目的で一般社団法人が設立されることがあるが、その代表者には第三者として公認会計士や税理士が就任することが多い

【レセプト債の留意点】
・アレンジャーは私募債の組成が主たる業務だが、流動化する診療債権情報を提供する会社、私募債発行後の資金回収や利払い、債権買取りなど発行会社の必要なオペレーション(実務的作業)を代行する会社などでアレンジャーの関係者が実質的に行っている場合が多い。私募仕組債と違って、この部分で証券会社が関与することがないので、販売者としてのアレンジャーに対する確認作業が重要になる
・発行される私募債は少人数が対象となっているので、それ自体は少額だが、販売証券会社毎に発行日や償還期日を調整することで、多数銘柄の発行を継続的に行うことができ、結果として私募債の発行総額が100億円を超えることがある。昨年11月に破綻したオプティファクター社がアレンジャーを行った3社分の発行総額は227億円、投資家数は2,470名となっていた(私募債取扱証券会社数7社分)

■ 金融商品としての課題

 前章で説明したように証券化商品としての私募債において、アレンジャーの役割が非常に大きい。また、原資産となるものには、診療報酬債権・介護給付費債権・中小企業の一般売掛債権・海外不動産・保釈金・病院不動産などの流動化を目的として私募債発行事例があるが、その対象に制約は設けられていない。また、これらのオペレーションに関して、私募を取り扱うそれぞれの証券会社にその専門性はない。

 ただし、少人数を対象とした私募債とはいえ、証券会社として個人投資家に対してこれらの私募債を取り扱うには、商品性を審査したり、発行者の財務内容等を確認する必要がある一方、私募債の発行後、私募債の発行会社やアレンジャーなどのオペレーションに対するモニタリングは必要ではないかと考える。また、私募債販売時に個人投資家に対して行った説明内容と発行会社の実際の運営状況などが一致していることも確認する必要がある。

 本年7月に日本証券業協会では、私募債の取り扱いに関して自主規制ルール制定を目的とした“私募債等の商品審査及び販売態勢等のあり方に関するワーキング・グループ”が設置された。年内には自主規制案が公表される予定だが、最近の行政処分事由や他の自主規制ルールから、どのような項目が必要か想定してみた。(以下、現時点での筆者の私見のため、実務想定は今後公表される自主規制案をご参照下さい。)

【商品審査及びモニタリングする項目】(商品内容に合わせて重要性を順位付けたり、項目を選択すべき)

◇資金使途についての確認
 投資家の資金が何に利用されるかは重要で、その原資産買付け状況の適正さも確認しておく必要がある。
◇発行スキームの適正さ
 証券化商品は原資産に係るキャッシュフローをマネージメントするスキームが多いが、このフローが適正かどうかを確認することで、将来の原資産の劣化を防ぐ。
◇発行会社の財務内容
 私募債は形式的には無担保債のため、発行会社の財務内容の確認は定期的に必要である。
◇原資産の内容や状況
 証券会社としては原資産に関する専門性はないものの、専門家やアレンジャーがどのように原資産内容や状況を把握しているかを確認する必要はある。
◇アレンジャーの財務内容
 発行会社のオペレーションをアレンジャーに頼っている以上、アレンジャーの運営状況も確認する必要がある。
◇投資家保護の仕組み
 発行会社のオペレーションを、投資家の立場で誰がどのように行っているか確認する必要がある。(一般社団法人、監査法人、税理士法人などの監査等の実態について)

【投資家への情報提供内容の確認】

◇契約締結前交付書面などで投資家に示された商品内容・リスク情報に関して、問題がないかどうかの確認を行う必要がある。また、モニタリングを行っていくうえで、投資家に提供した情報と実態の一致を意識する必要もある。

 なお、私募債が中小企業のファイナンス手段として行政などにも強く意識されているように、中小規模の事業者にとっては重要な資金調達手段であるので、その事業が地域や社会にとって意味のあることなら適切にリスクを説明したうえで投資家に繋いでいくのも証券会社の社会的に求められている機能のひとつだと考えるが、そのための態勢整備もまた同時に求められている。

■ 私募債に対する期待とその可能性について

 私募債は、その多くが無担保無格付けの満期一括償還で、期中の利払いは原資産が生み出すキャッシュフロー、償還は原資産価値が大きく影響する。また、発行会社は原資産を保有するための器で、原資産を取得する資金調達のために社債を発行するが、社債権者は原資産に対する直接の所有権は有しない。

 一方、特定の事業に関する原資産を保有する方法として私募ファンドがあるが、その代表的な方法であるGK−TK方式(合同会社を設立して、投資家はその出資を匿名組合の持分で行う方法)では、出資者が原資産を保有する形をとる。この原資産が不動産であれば、私募REITということになるが、出資者は原資産の価格が上昇した場合のメリットを享受することも可能だ。この私募ファンドの組成や自己募集には第二種金融商品取引業として、また投資対象が有価証券の場合は投資運用業として、それぞれの登録が必要で組成者や運営業者は既存の金融行政の枠内にある。

 本稿で取り上げた私募債の実質的な組成や運営を行うアレンジャーは、投資対象の専門家ではあるが金融行政の制約は直接受けない場合が多い(一部は、適格機関投資家特例業務“プロ向けファンド”で行っている)。そのため、私募債を扱う証券会社は、前章で取り上げたように投資家のためのデューデリジェンス対応が求められている。

 最近1年間で私募債を取り扱った証券会社の行政処分事例が相次いだが、オプティファクター社のような犯罪的事案は論外としても、私募債発行会社での投資目的以外(アレンジャーなど運転資金)の資金流用や、発行した社債間での資金・資産流用が一部にあった。また、私募ファンドの組成者やプロ向けファンド業者の一部資金流用(顧客資産の分別管理義務違反)なども摘発されている。私募債を販売する証券会社の態勢整備が行政処分を通じて求められているが、証券会社の商品審査やモニタリングを通じて、投資家保護と資本市場ルールがアレンジャーなどの事業者に浸透していくことに期待したい。

 また、私募債の発行や対象事業の拡大のためには、複数の私募債を組み込んで組成するCBOを事業毎に組成する仕組みがあった方が良いかもしれない。例えば、相当数の私募のレセプト債を集約して、数百億円規模のレセプトCBO組成が実行されれば、個々の私募債に係るデューデリジェンス費用や組成コストを低下させ、原資産内容やその管理方法を向上させていく可能性もある。なお、現在の私募REITにおいては、上場REITという受け皿があるので投資目的も明確であり、その上場REITを意識して私募REIT段階での組成や運用では、投資家保護の仕組みに取り組むことも多くなっている。

 現在、証券化商品の私募債は、中小規模の事業やインフラ開発の資金調達手段として利用されているが、ジャンク債市場のない我が国において、投資家からみるとミドルリスク・ミドルリターンを望むことができる市場となる可能性もある。一方、極小規模の資金調達手段でネットを利用するクラウドファンディングとしてのソーシャルレンディングは、国内外においても急成長しているが、投資家のためのデューデリジェンスや投資家保護の在り方は基本的に同じ構造であるべきだ。

 私募債であれ私募ファンドであれ、通常の銀行融資が付き難い中小事業(診療報酬債権などのような病院経営に係るものも含む)に係るものが多いが、その事業内容が地域社会に貢献するものだったり、社会的に意義のあることであれば、投資リスクと社会的投資責任などを意識しながら投資判断を行う個人投資家が増えていくことは、我が国の資本市場機能の充実に繋がるのではないだろうか。

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