対談&セミナーレポート メタバースとNFTは社会をどう変えるのか?ボーダレスアートプロジェクトが示す未来とは

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2023年5月22日

ここ2年ほどで大きな注目を集めるようになった「メタバース」。そんななか、障がいを持った子どもたちのアートをメタバース上に具現化し、NFT化するというユニークなプロジェクトがスタートしました。主宰するのはIT企業の日本電子計算の戸田 邦昭。そのほか建築家の鶴田 一氏、メタバースシステム開発企業Urth代表の田中 大貴氏、NPOラマモンソレイユ、コンサルタントなど多くの人々が本プロジェクトに参画しています。

今回は建築家・鶴田 一氏とUrth代表・田中 大貴氏、そして日本電子計算・戸田 邦昭による鼎談が実現。「メタバースとNFTが秘める可能性」をテーマに話が展開されました。

メタバースとNFTは社会をどう変えるのか?ボーダレスアートプロジェクトが示す未来とは

(左)株式会社 NRC一級建築士事務所 代表取締役社長 一級建築士/作家/都市計画・観光政策研究者 鶴田 一氏
(中)日本電子計算株式会社 技術本部 COCREATION LAB部 DIGITAL技術推進担当 戸田 邦昭
(右)株式会社Urth 代表取締役社長 田中 大貴氏

  • メタバースの現状と可能性、そして課題
  • ――まずは、メタバースの現状について皆様それぞれの立場から見解をお願いいたします。

    田中氏:日本でメタバースという言葉が注目されるようになったのは、ここ1、2年のことです。きっかけは2021年にFacebook社がMetaへと社名変更したことでしょう。ただ、メタバースのような“仮想空間”については、もっと前から技術としては存在していました。それこそ20年近く前に登場したセカンドライフも、メタバースの一種だといえます。

    戸田:IT企業の現場から見ると、まだまだメタバースがビジネスになっているとは言い難いのが現状です。しかし「ビジネスにならないからやらない」というのは違うと思います。IT企業としては、今のうちから未来への投資としてさまざまなチャレンジをするべきでしょう。私自身はメタバースにインターネット黎明期と同じくらいのワクワク感を感じています。

    鶴田氏:私は一級建築士として建築デザインを手がける一方、メタバースという言葉が一般的ではなかった3年ほど前から、仮想空間における建築設計も行っています。その立場からまず前提として共有しておきたいのが、建築業界では何十年も前から完成形をイメージするために、3DやVR技術が業務に活用されていたことです。メタバースブームとはいわれていますが、私にとっては昔からある3DやVR技術の名称が変わっただけなのです。

  • 将来世代にとってメタバースは当たり前に“存在”するものとなる
  • ――昔からある技術が呼び方を変えたことであらためて注目されていると。

    鶴田氏:その側面はあるでしょう。ただ、昨今注目されているメタバースと、建築業界にとってのメタバースは、ちょっと立ち位置が異なります。というのも、建築業界にとって3DやVRは、あくまでも現実をシミュレーションするツールに過ぎず、メタバース空間そのものが納品物ではないのです。当然、メタバース空間をデザインする仕事も昔はありませんでした。正直なところ、建築業界では実際に触れられる「建物」に価値を見出す人がほとんどで、仮想空間をつくりあげることに価値を感じる建築家はまだまだ少数です。

    戸田:私も昔から活用されてきた3D空間と、現在注目されているメタバースは異なるものだと感じます。大きな違いが“通信技術”と“人の認識”です。

    田中氏:メタバースの最大の価値は、その空間内で人同士がつながりコミュニケーションすることです。その意味では通信技術の進歩は大きいですね。
    また、人の認識という点で昔と今で異なるのは、「現実のモノにこそ価値がある」という感覚が薄れつつあることです。たとえばゲームの世界では、アイテムの課金やオンライン上のコミュニケーションはもはや当たり前です。とくに2000年以降に生まれた世代にとっては、メタバース空間は当然のように“存在する”ものです。彼らのように、実体を伴わないモノに価値を見出す世代が、今後の購買層の中心になっていきます。

    田中 大貴氏

    田中 大貴氏

  • これからのメタバースに必要なのは「力強いコンセプト」
  • ――すでにメタバース空間のデザインを手がけている鶴田さんは、今後のメタバース空間デザインについてどうお考えでしょうか。

    鶴田氏:これまでの経験から言えるのは、「コンセプト」こそが重要だということです。せっかくメタバース空間をつくっても、そこに力強いコンセプトがなければ、持続させるのは難しいでしょう。これは、現実の建築でも同じです。コンセプトがない建物というのは、往々にして凡庸でつまらないものになりがちです。建築家は何よりもコンセプトを大事にしますから、メタバース空間のデザインには向いていると思います。

    田中氏:非常に面白いですね。現在のメタバースはゲームとの相性が良いという性質上、ゲームクリエイターがデザインすることが多いです。鶴田さんのお話を聞くと、ゲームクリエイターと建築家では、出来上がる空間もまったく異なるものになりそうですね。

    鶴田氏:たとえば、ゲームクリエイターが得意とするのは、エフェクトです。物体を動かしたり、アバターが動いたりしたときなどに発生するエフェクトに関して、ゲームクリエイターはすばらしい創造性を発揮します。一方で、建築家は現実の建築設計を反映できるので、仮想空間でありながらも、リアリティを感じさせる世界を構築できます。

    田中氏:コミュニケーションの場としてのメタバースにおいて、リアリティはとても大事な要素だと私も思います。すごくきらびやかな図書館をつくっても、本が取りづらいと足は遠のきます。同じように、メタバースでも人を集めて留まらせるためには“そこに長くいたくなる“空間づくり”が求められるはずです。

    鶴田氏:そういう意味では、目的を落とし込んで体験をデザインする街づくりや都市計画と似ている部分もあるかもしれませんね。

  • NFTがメタバースに新たな価値をもたらす
  • ――ブロックチェーン技術が用いられたNFTも現在注目されていますが、メタバースにおける影響や可能性などについてどう思われますか。

    田中氏:NFTとメタバースは依存するものではないですが、NFTを活用することでメタバースに新たな価値を創出できる可能性を秘めていると考えています。たとえば、あるメタバースが大人気になり、何十万人も集まる空間に育つと、場としての価値が上がります。すると、このメタバース空間の所有権をオークションにかけることもできるでしょう。ただ、メタバースは仮想空間なので、そのままではコピーなどのリスクがあります。そこで、NFTを活用すれば「所有者」を確定できるわけです。このように、メタバースのマネタイズにNFTが一役買う可能性はあるでしょう。

    鶴田氏:NFTはこの1、2年、一時的に投資ゲームのような形で使われていたのもあって、本来の意義がまだ理解されていない状況です。ようやく今になってそうした狂乱が覚め、NFTの本当の使い方ってなんだろうと人々が模索し始めたタイミングではないでしょうか。田中さんがおっしゃるように、これからはメタバースのコミュニティ内での活用例がどんどん出てくると思いますね。

    鶴田 一氏

    鶴田 一氏

  • メタバースによって世界はどう変わるのか
  • ――ここまでのお話をもとに、メタバースの未来をどのように予想されますか。

    鶴田氏:少子高齢化が進み、人手不足が深刻化する日本では、もはやメタバースに活路を見出すしかないかもしれません。たとえば、障がいを持っていて物理的な移動が難しい人も、メタバース内であれば仕事ができる可能性があります。メタバースが働き方を多様化させることで、働きたい人が働けないという機会損失を防げるのです。
    また、メタバースには既得権益も不平等感もないし、国境もありません。いきなりグローバルにつながれるわけですから、いろいろなチャンスが生まれると思います。しがらみや既得権益でがんじがらめになっている古いビジネスがリセットされる世界、それがメタバース空間だと思います。

    田中氏:今、スマートフォンは完全にコモディティ化して、革新的な進化がなかなか生まれにくくなっています。そんななかで、多くの企業が“スマートフォンの次”を模索しているでしょう。今後生まれるであろう次世代のデバイスとメタバースが結びつくことにより、一気に普及する可能性を秘めていると考えています。
    また、情報がありふれている現在においてITに求められるのは、情報を探さずとも欲しい情報に導いてくれる世界です。ChatGPTはそういった側面で注目を集めていて、メタバースとの相性も抜群です。たとえば買い物のシーンでは、メタバース上で何を買ったら良いかをAIに相談すると、アドバイスをもらえ、メタバースの中のお店で買い物を済ませる――といったように、メタバース上で完結できます。

    戸田:仮想世界で、好きなアバターで違う自分になり、好きなことをする。そこで新たな化学反応が起こり、ビジネスや教育に無限大の可能性が生まれる。たとえば社長が女子高生のアバターを使って会議をしたら、何かが変わると思いませんか? それこそがメタバースの魅力であり、いずれ訪れる未来だと思います。

  • メタバース×ボーダレスアートが示す未来
  • ――最後に、今回のプロジェクトを通じての気づきや得たものについてお聞かせください。

    鶴田氏:今回のプロジェクトの主役は、街をつくりあげた子どもたちであり、大人たちはあくまでも黒子です。私は昔から「建築家は、表に出るべきではないし、主役になるべきではない」と考えています。現実の建築においても、やはり主役はそこに住む方々ですから。このプロジェクトを通じて、あらためてその考えを再認識できました。

    田中氏:今回のプロジェクトで、私の役割は子どもたちや鶴田さんをはじめとする皆さんが持っているスキルを価値に転換することでした。ほかにもきっと、メタバースに価値をもたらせる人たちはたくさんいるはず。そうした人をメタバースに導き、価値を創出し、お客様に届けることが私のやるべきことだと気づけました。

    戸田:鶴田さん、田中さん、そして多くの方にご協力いただき、プロジェクトに取り組むことができました。子どもたちの作品を世界中に発信することで、面白いと思ってくれる人たちとつなげていき、障がいがある、ないに関わらず、一人ひとりが解放して自由に楽しめるボーダレスな世界を実現したいと思っています。こうした取り組みは継続することが大事なので、ぜひ今後も続けていきたいですね。

    戸田 邦昭

    戸田 邦昭

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