日本電子計算の設立は1962年、まだコンピュータが高価で普及しておらず、ビジネスマンですら一人一台所有していなかった時代です。設立当初はさまざまな企業の計算業務を請け負い、1969年にソフトウェア受託開発を開始しました。証券、建築、行政などに向けたシステムやオンラインサービスの開発・提供を手がけ、昨今ではSaaSをビジネスの中心に、幅広いITサービスを展開しています。
IT業界の老舗とも言える同社ですが、新しい技術が次々と生まれ不確実な時代(VUCA時代)に突入したなかで、社員に“挑戦”を促す風土をつくり、新領域の可能性を探る活動を活発化させています。こうした全社をあげてのチャレンジについて、同社の執行役員で技術本部長である池田 史、技術本部 COCREATION LAB部の戸田 邦昭に話を聞きました。
(右)日本電子計算株式会社 技術本部 COCREATION LAB部 DIGITAL技術推進担当 戸田 邦昭
(左)日本電子計算株式会社 技術本部長 兼 公共事業部副事業部長 執行役員 池田 史
- VUCA時代に真面目に向き合い、新たなチャレンジに挑む
- 研究開発部隊の発足、自由に使える「チャレンジ時間」設立など、多彩な施策を展開
――新しいことにチャレンジしていこうという、全社的な意識改革に取り組まれたことには、どのような背景があったのでしょうか?
池田: 当社は顧客に寄り添ったサービス開発、サポートを提供していく中で、これまで真面目な姿勢で顧客と技術に向き合い信頼を獲得してきました。一方で昨今のビジネス環境ではさまざまな技術が生まれ、劇的な変化を遂げました。将来の見通しが立てにくくなった大変革期の真っ只中では、“真面目さ”だけでは戦えなくなっています。また、当社ではこれまで築いてきた信頼関係やサブスクリプション型のビジネスなどにより業績が安定し、“新たなチャレンジをするベース”が整ったといえます。
戸田: たしかに今の当社のイメージは「真面目」ですね。ただ日本で初めての商用オンラインサービスを開始した例(1971年)があるように、先輩方はチャレンジをしていたわけです。私が入社した25年ほど前も、ちょうど普及し始めたインターネットを使って何かビジネスができないか、いろいろなチャレンジが行われていました。当時は「型破りな会社だ」と思ったくらい、いきいきしていたと記憶しています。そこから時代が変わるにつれて信頼性重視へとシフトしていき、さらにQCDの意識が高まって、守りに入ってしまった側面があります。
昨今ではAIやWeb3.0、ブロックチェーンなど新たなものが生まれ、変化の最中にあります。会社として新たな進化を遂げるには、やはりチャレンジが必要なタイミングですよね。
池田: 今は現業が潤っていても、10年後も今のままなのかと聞かれればそうではありませんからね。経営層とも「従来以上のチャレンジが必要だ」という認識は共有しています。これからは社員のチャレンジ意欲を高め、企業としてトランスフォーメーションをしていかなければならないということです。
――戸田様の所属するCOCREATION LAB部(以下、CCL)についてお聞かせください。
戸田: 以前、新領域への取り組みは各事業部が個別に行っていたのですが、池田が所属長になった際、部門を横断して情報共有や共同開発ができる研究開発部隊をつくられました。これがCCLの前身です。以降CCLでは社内のチャレンジをけん引していくために、新たな領域の基礎研究をしつつ、それが何に使えるのか、ビジネスに繋がるかを模索しています。
池田: 当初は金融、公共、産業、証券という事業領域ごとに別会社のようになっていました。時代に順応したチャレンジをしていくためにも横の繋がりは重要だと考え、各事業部のハブになってもらうことを狙いとして、後にCCLとなる研究開発部隊を発足しました。
――CCLにおける戸田様の研究活動の内容についてお聞かせください。
戸田: CCLで取り扱う研究テーマは「0.5歩先の技術」とし、当社の強み・弱み、世間のトレンドを分析して設定しています。実際に私が取り組んでいるテーマは「メタバース・NFT・SDGs」です。障害を持つ子どもたちのアートをメタバースの世界に具現化してNFT化することで、SDGsにも繋げられないかと考えています(詳細は連載第1・2回目を参照)。
こうした研究はすぐに収益を出せるものではありませんが、ここで得た知見が次のビジネスに繋がると考えています。CCLには現在13名が所属していて、そのうち6名が研究や実験を行い、7名が研究内容や成果を社内外に広報する役割を担っています。将来的には全員が、何でもできるチームにしたいと考えています。
――CCLはチャレンジの旗頭というところですね。社員へのチャレンジ促進策は他にどのようなものがありますか?
池田: 2022年度10月に「チャレンジ時間」を設けました。全社員に割り当てられる時間で、それぞれ年間60時間以内であれば、自由に活動することを公認するという制度です。たとえば自己啓発や通常業務以外の探求に充てられます。また技術本部に属する社員には、チャレンジ時間のほかに、新たな価値を創造するための勉強や研究に費やしてもらう「バリューアップタイム」をさらに60時間、用意しました。
こうしたチャレンジの時間を使って、先端技術に関心のある社員「アーリーアダプター」が中心となって、Microsoft Teams上に事業部横断のコミュニティをつくっています。そして徐々にではありますが、新たなサービスやビジネスのPoCが始められています。
戸田: Teams上にはDXコミュニティやクラウドコミュニティなどがあって、そこでカジュアルな意見交換やアイデア出しが行われています。また、当社は東名阪に拠点がありますが、リモートワークが根付いているので、ロケーションフリーでコミュニティに参加できるのも魅力です。私自身も普段は名古屋からプロジェクトに参加しています。東京にいなくても、新たな技術を起こせる文化はあると思っています。
またコミュニティを通じて「隣の人が何をしているのか」「どんなことにチャレンジしているのか」がわかるので、社員同士の繋がりが生まれる気運も高まってきたと感じます。
人・技術という「点」を「線」で結ぶことで企業価値が高まる
――さまざまな施策で社員のチャレンジを促している貴社ですが、「企業にとってのチャレンジ」とは、どのようなことだとお考えになりますか?
池田: 結果はさておき、チャレンジしようとする社員の好奇心を支援すること、それが企業のチャレンジだと思っています。人は自分を信じればいろいろなことに挑戦できます。企業が「自分を信じて突っ走れ! 」と社員を後押しすることが重要だと思いますね。
戸田: 企業は人や技術の集合体です。個々を点だとすると、それを線で繋いでいくことで、企業の持っている使命、たとえば社会課題の解決や新たなサービスづくりを実現できます。こう考えれば、まさに点を線で繋ぐことがチャレンジと言えるでしょう。チャレンジを少しずつでも積み重ねていけば、やがてはシナプスのようなものができあがり、おのずと化学反応を始め、新たな創造が生まれる。ひいては会社の価値・ブランドが上がっていくと思っています。
池田: スティーブ・ジョブズ氏も米スタンフォードの卒業式で「点と点と繋げよ(connecting the dots)」と言っていますね。弊社は歴史が長く、いろいろな点を持っているので、大きな可能性を秘めていると思います。
――最後に、技術者を目指す方々へメッセージをお願いします。
池田: 自分の興味や自信がある技術領域を軸にして、それをベースに枝葉を伸ばすイメージで「自分の木」を育てていってほしいですね。そうすれば視野の広い、良い技術者になれると思います。
戸田: 私は学生時代に「インターネットで世界が変わる」とワクワクしていました。今、注目されているメタバースのような技術にも、同じ世界観があります。是非この世界で一緒にやっていきましょう。