対談&セミナーレポート 生産現場の設備状況を「見える化」。製造業のDXを牽引する2社の協業

対談
製造
IoT
2022年3月31日

生産現場において多様な設備のデータを収集することは、監視・点検工数削減、故障予兆検知、稼働状況の遠隔監視をサポートし、さらにそのデータを活用すれば新たな価値創出への展開も可能となる。いわゆる工場のIoTソリューションだ。カーエアコン用コンプレッサーの部品加工、組み立てを行う名張製作所を配下に持つ名張ホールディングスと、NTTデータグループのITベンダー・日本電子計算は、ものづくり現場の生産設備に関するさまざまなデータを収集・可視化するIoTセンサープラットフォームを共同開発し、2020年4月に販売を開始した。

  1. 「自らが製造業」の立ち位置でDXソリューションを開発
  2. 日本の産業界は、少子高齢化による労働人口減少という深刻な課題に直面している。とりわけシビアな状況にある業界の一つが製造業だ。製造業では以前から原価改善、省人化対応などがテーマとなっていたが、そこに人手不足という要素がプラスされ、生産設備を効率よく稼働させて生産性を高めることが求められている。

    解決のカギとなるのが、データだ。製造業でも大手は生産設備からデータを収集し、活用を始めている。しかしながら中小を中心にまだ大半の企業では、データをどのように扱い、価値を生み出していけばいいのか見えていない状態だと、名張ホールディングスの事業開発部長、武藤英行氏は語る。

    「製造業では、とにかく人材が集まらないことが最大の課題です。また、ベテランの従業員が定年で職を離れ、彼らが長年培ってきた“カン・コツ”を若い世代に継承していくことも難しくなっています。そうなると、設備の状況やベテランのスキルをデータに置き換え、目に見える形で伝えていくことが必須になるのですが、多くの製造業はそうしたデータ活用が進んでいないのが実情です」

    近年は「DX(デジタルトランスフォーメーション)をやりなさい」とトップダウンの指示が出されるケースも少なくない。とはいえ実際に何をすればいいのか、多くの製造業者は悩んでいる。さまざまなITベンダーから製造業向けソリューションも登場しているが、かゆいところに手が届くツールはなかなか見つからないと武藤氏は指摘する。

    こうした背景で生まれたのが、生産設備のデータをセンサーで集め、見やすいグラフの形で可視化するIoTプラットフォーム「ParaRecolectar」(パラレコレクター)だ。

  3. 導入・活用しやすい汎用性と柔軟性がポイント
  4. 武藤氏が言うように、温度、振動、電流、気圧、湿度といった多彩なセンサーをニーズに応じて自由に選び、組み合わせ、かつ簡単に取り付けられる点、そしてどこにでもあるLANケーブルを利用できる点が、最大の特徴だ。既存設備にセンサーを組み込もうとすると大掛かりな改造が必要になるが、ParaRecolectarならその心配がない。ちなみに、センサーはユーザーが用意した他社製も接続できる。こうした仕様を採用した理由について、武藤氏は次のように話す。

    「多くの企業がデータ活用を考えていますが、どのようなデータを取ればいいのかわかっている企業はほとんどありません。ParaRecolectarなら、まずは導入し、センサーを組み合わせて試す中で、データ活用の可能性を見つけられます。そうした環境を提供するため、汎用性と柔軟性にポイントを置いて開発しました」

    ハードウェア部分は名張製作所が開発。一方、入力されたデータを分析・可視化するアプリケーション「ParaReco Visualizer Lite」の制作を担ったのが日本電子計算(JIP)だ。同社は金融・証券をはじめさまざまな産業・教育・公共分野のシステム開発やBPOを提供する企業。2012年にNTTデータグループの一員となり、顧客基盤や業務知識・スキルを相互活用したサービス拡大に努めている。

    ソフトウェア面のポイントについて、同社産業事業部 法人統括部 開発担当部長の森伸也がこう語る。

    「コンセプトは、ものづくりの現場で簡単に操作でき、可視化したものを手軽に見られること。ですからアプリも、ITのスキルや知識がなくても感覚的に扱えることを意識して開発しました。最初に簡単な設定を行うだけで、センサーから取得したデータをグラフで見たり、しきい値を設定してアラートを出したりといったことが手軽に行えます」

    名張製作所は製造のプロだが、ITについてはそうではない。一方のJIPはITのプロだが、製造業のニーズはわからない。そこでアプリ開発は、名張製作所が製造業の求める機能のイメージを伝え、それに対してJIPが画面構成や操作方法を提案しながら作り上げていった。

    当初は名張製作所単独で開発がスタートし、データロガーのハードウェア自体は、2018年の開発スタートから1年も経たずに基本部分はほぼ固まっていた。次のステップとして、いかに使いやすいユーザーインタフェースにするかが課題になったという。当初検討していたのはデータをCSV形式で保存する仕様で、2019年2月の展示会にはその形で出展したが、CSVでは現場ユーザーに集計の手間が発生してしまう。コスト面を考慮して名張製作所で内製したアプリも機能・画面ともに洗練されていなかったため、改善の必要性を感じた。

    「実は当社内でも、現場ではすぐに使われなくなってしまったのです。やはりデータを見たときの感動、感性に訴える見える化が大切だと考えました」と武藤氏。そのタイミングで、Webシステム構築等で取引のあったJIPの森に話したところ 、森は「グラフィカルでわかりやすく、操作も簡単なアプリを制作してみましょう」と応えた。開発においてこれが最大の転機だったと、武藤氏、森の双方が声を揃える。

  5. 現場の生のニーズを聞いてブラッシュアップを重ねる
  6. プロジェクトは2019年5月に本格スタート。実は当時、JIPではIoTビジネスを手掛けたことはなかったが、よりわかりやすく使いやすいアプリ作りには自社の技術と経験を活かせると考え、協業を決断したという。

    2019年秋からは無償トライアルの提供も始め、そこで得られるフィードバックを基にブラッシュアップを進めた。このフィードバックでは、電源を用意できない場所にある設備でデータを取得したいとの要望を聞き、USB接続のモバイルバッテリーで駆動する仕組みを追加。前述の他社製センサーを接続できる仕様も、ユーザーの声を聞いたのがきっかけだ。「机上で考えているだけでは出てこない現場の生のニーズを知り、開発に活かせました」と武藤氏は話す。加えて、価格が20万円を超えると現場決裁が難しく、導入にハードルがあることから、標準で8基搭載のセンサー接続ポートを4基に減らし、20万円を切るエントリーモデルも追加した。

    「アプリについては、両社間でイメージを共有したうえで実際に作り込み、ある程度できたところで話し合い、さらにユーザーの声も聞きながら改良を加えるという、アジャイル的な開発手法で進めていきました。ハードウェアの基本は出来上がっており、それを基にアプリを改良していくことが基本線だったため、スモールスタートで効率的に進められました」と森は振り返った。

    名張製作所によると、利用者から「点検に行きにくい場所の情報を遠隔監視でき、安全性が高まった」という声や「持ち運びが出来るので、様々な場所でデータ測定を試してみたい時に便利」といった声が寄せられているという。また、「設備故障時に振動や電流値をその場で数値化でき、故障要因調査の効率が上がった」という評価や、「少ない工数でデータ精度の改善、多量のデータ収集が可能になった」という意見も届いている。現在は評価段階の顧客が多く、本格的にはこれからといったところだが、手軽さや柔軟性が高く評価されているようだ。

    将来的には、AI/機械学習などのテクノロジーを加えて故障予兆検知の精度を高める、クラウドサービスと連携して他のシステムと統合管理できるようにする、といったアップデートを視野に入れている。

    武藤氏は今後に向け、JIPのITの知見とスキルはもちろんのこと、NTTデータグループのスケールを活かした展開の拡大にも期待する。その延長線上で、これからもJIPと力を合わせて製造業視点のDXソリューションを生み出し、日本の製造業を盛り上げる一助になりたいと、未来に向けた抱負を語ってくれた。

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